専門店の味を自宅でも。職人がつくる玉子焼き器
東京葛飾区で60年以上、銅の道具をつくり続ける「江戸幸(えどこう)」 勅使川原隆さん。おろし金を主につくっていますが、その次によくつくるのが玉子焼き器だそうです。
多くの和食料理人から指名され続ける玉子焼き器は、厚みがあって決して軽いものではありません。けれどこの厚みこそが、家庭料理の味をぐっと引き上げてくれます。
■違いは銅の厚み。職人技でつくる玉子焼き器
「うちのは厚みが全然違う。板が薄ければプレスで一発でつくれるからもっと安くできるけど、うちみたいな厚い板だとプレスはできない。だから、溶接をするんだ」
勅使川原さんがそう語る通り、銅板に厚みがあるためずっしりとした重みがあります。
銅板が厚いということは、丈夫で熱が均一に伝わるということ。また銅製なので熱伝導率がよく、厚みがあってもすぐに全体に熱がまわります。
プレスをしたあとは、ひとつひとつ手作業で錫(すず)を焼き付けます。錫でコーティングされていると錆が発生しにくくなるので、家庭でも安心して使えます。▲機械でのメッキ仕上げとは異なり、手仕事の跡が見えます熟練の技術で仕上げた玉子焼き器は、凛とした美しさがあります。丁寧に仕上げられた細部にこそ、親子代々と受け継がれてきた職人の精神が宿っているようです。
▲「うちのはここの返しがきちんとつぶれているんだ、その方が見た目が美しいしスマートだから。親父がそういうことにうるさかったんだ」と勅使川原さん
■使いはじめが肝心!たっぷりの油で油ならし
いきなり使い始めると、卵がくっついて大変なことに。まずは油ならしをしましょう。
フライパンの高さの6~7割くらいまで食用油を注いで、弱火で5分ほど加熱しながらなじませます。使い終わった油は、不純物が浮き上がることがあるので冷ましてから捨てましょう。たっぷりの油で野菜くずを炒める方法もあるそうですが、愛用するスタッフは上記の方法で油ならししたところ初回から全くくっつかなかったそうです。
■卵焼きづくりのポイント
実際に愛用するスタッフの体験を元に、ポイントをいくつかお伝えします。最初くっつくのが不安な時は、出汁なしのレシピだとよりつくりやすいです。
〇最初の油はたっぷり。火は弱火~弱めの中火
油をたっぷり引いて、弱火~弱めの中火で加熱。十分に温まったら、卵を流しいれます。
▲じゅわっとよい音!気泡をつぶしながら少し固まるのを待って、巻き始めましょう
〇卵はひと巻きするごとに、油を引く
油がなじんでくると、毎回ではなく2~3回に1回でもよくなるそう。初めのうちは慎重に、毎回引きましょう。
▲キッチンペーパーで引きます
〇焦げないように、手早く巻く
熱伝導がよいので、時間をかけ過ぎると巻く前に卵が固まってしまいます。少し手間取ってしまった時は、玉子焼き器を火から離して作業するとよいです。こうして出来上がった玉子焼きは、とてもしっとりしていて専門店のような味。きめ細やかな舌触りは、火がうまく通っているからなのでしょう。昔から玉子焼き器に銅が使われていたのも、テフロンフライパンでつくったものと比べてみると納得の違いです。少し慣れてきたら、出汁入りのレシピも試してみましょう。万が一途中でうまく巻けなくても、最終的に帳尻が合ってきれいに仕上がります。
■使用後は、洗剤を使わず洗って
せっかく馴染んだ油を落としてしまわないように、洗剤をつけないスポンジで洗ってすぐによく乾かします。
裏を見ると、ガス火の跡が花火のように。この跡がもっと濃くなる頃には、油がなじんでより使いやすい玉子焼き器に育っているのでしょう。
▲大体10回くらい使ったものです
よい道具に出合うと、料理がちょっとしたイベントのように楽しくなるもの。お弁当や食卓のプラス一品に、卵焼きづくりをお楽しみください。
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SHOPPING MEMO
素 材/銅、錫、天然木
サイズ/125mm×185mm×全長385mm